防弾技術の歴史

 防弾技術の歴史を調べ始めると、それだけで大きなカテゴリーの学問になるかもしれません。その学術面を追及する目的ではありませんので、私の聞き及んだ概ねの内容をメモします。この記載内容に関しましてご指導いただける部分がありましたら是非ご一報いただけますと幸いです。

 銃火器が登場する以前の携帯武器の主体は弓矢ですが、多分人類の歴史と同じくらいの期間があるはずです。いずれの時代でも、矢が飛んでくる射線上で人を守る為の甲冑や盾は戦場での装具になっていたことは、ご存知の通りです。

 殺傷力の大きい「銃」という武器が現れてからでも、防御装具の概念は基本的には変わっていません。要するに、銃弾を阻止できる装具が必要とされているわけです。その規模や技術は、時代を経るにしたがって高度化・高機能化してきました。

 ここでは個人用装備のボディーアーマー ( 防弾ベスト ) についてメモします。
 兵士が戦場で着用するボディアーマーは当初は純粋に金属製の甲冑でした。これは銃弾の威力と甲冑の強度の優劣で有効性が検証されていきました。ところが甲冑を装着している本人は防御されても、表面で発生する跳弾が隣にいる兵士の甲冑の隙間 ( 特に脇の下 ) から侵入してしまい、意図しない形で死傷者を発生させてしまうことが頻発するようになりました。
 これにより跳弾を発生させるボディアーマーから脱却できる次世代の性能のものが必要になってきます。そこで登場したのが繊維を使用したボディーアーマーです。いわゆる防弾チョッキといわれたものです。実戦で用いられ始めたのはベトナム戦争だそうです。繊維素材はケブラー等のナイロン系が代表的なものです。
 繊維素材の開発・改良は随時進んでいきますが、残念ながらベトナム戦争当時は武器の威力のほうが優勢だったそうです。期待したほどの防弾効果が得られないため、一時期は2着を重ね着して試したこともあったそうですが、熱帯での作戦行動では厚くて重くて戦闘できないという不評から、ボディーアーマーの装着は軽視されてしまいました。
 ベトナム戦争以降、セラミックスのような高硬度の材料と繊維素材を組合わせたタイプのものの開発も進んできています。
 また繊維の技術革新も進み、現在では「ダイニーマ」や「スペクトラ」が主体になっています。これによりボディアーマーの必要性・有効性が見直され、湾岸戦争から米軍は 「 スペクトラ 」 製のものを正式採用して部隊を現地へ投入しました。スペクトラ自体は比重が0.98と非常に軽量で水分や油分によっても劣化が発生しませんし、特にベトナム戦争時代から兵士を悩ませていた旧ソ連製ライフル 「 AK47カラシニコフ 」 から発射される FMJ・MSC ( フルメタルジャケット・マイルドスチールコア = 軟鉄弾 ) を有効に阻止することが実証されました。さらには狙撃銃から発射されるAP(徹鋼)弾に対してもセラミック製の追加装甲板を胸部ポケットに装てんすることで対処できるようになっています。現時点では米軍の正式採用で実戦投入されて性能が証明されたスペクトラ製のボディアーマーが最も有効な個人用防弾装備ということになるかと思います。
 今後の技術革新は、繊維とセラミックスの複合構造が研究の主体になっているようです。
 それでは日本では・・・私が現役自衛官だった1990年頃まではボディアーマーという装備の必要性はあまり議論されていなかったように思いますし、そいう話題に触れることもありませんでした。そしてイラク派遣を無事終わらせた段階でも、戦場の脅威武器がAK47であるという一般論は語られますが、本当の意味ではAK47から発射されるFMJ・MSC弾であることはほとんど認識されていないようです。イラク派遣前に現地の実情に即した実射確認試験が行われたのかどうかを私は知る立場にありません。
 ただその現状装備で、2009年ソマリア海域への船団護衛派遣が開始されました。現地へ派遣される兵士が本物の装備を与えられていることを願っています。

ウィキペディアに歴史に関する記載があります ⇒ Ballistic vest

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