海上自衛隊が持つべき防弾装備の要件 ( 提案 )

「 海上自衛隊が持つべき防弾装備 」 とは言いながら、まったくの私的見解です。

1 「 NIJ 脅威レベルV 」 に準拠した耐弾性能を有していること。
  部隊の防弾能力は作戦立案を大きく左右します。米軍はこれをNIJ脅威レベルで評価します。
  レベルVはライフル銃弾対応、レベルWはライフル徹甲弾対応ですが、陸上と違って不安定な海上では狙撃銃の徹甲弾を
 使われることは稀でしょうから、自動小銃に対抗する目的で、個人装備はレベルVを準備するべきだと考えられます。
 アメリカのルールでは、正規の試験を経て出てきた製品には、メーカーによる「耐弾証明書」とNIJ(連邦司法省研究所)の
 「認定書」が付いてきます。

2 ミッション・エリアの脅威 ( 現地に存在する武器 ) に対抗できる耐弾性能を有していること。
  派遣される先の現地では何が脅威武器なのかを予測する必要があります。
  そして地球上の大半の紛争地帯で最もポピュラーな戦闘銃はAK47カラシニコフであり、使用される銃弾はFMJ・MSC弾
 ( フルメタルジャケット・マイルドスチールコア=軟鉄弾 ) となります。
  実はこの銃弾を止めるには 「 NIJレベルV 」 というだけではまったく不足なのです。
  レベルVの定義では、7.62 mm 308 Winchester、FMJ弾を15mの距離で止めること(NIJ-Std 0108.01)で成立します。
  しかしながら同じ脅威レベルVのカテゴリーに入っているライフル銃 「 AK47+FMJ・MSC 」 を単にレベルVをクリアしただけ
 の素材でうけ止めようとした場合は、試験要領(NIJ0108.1)にある射距離15mではなく、500m以上離隔していないと耐弾は保障
 されないという実験結果がだされています。
 ( 軟鉄弾の大きな殺傷力に関しては、次コンテンツの 「 護衛艦の防弾性能 」  に参考資料を掲載してあります。 )
  従いましてこれもアメリカのルールですが、例えばAK-47に対抗できる防弾素材の性能を確認したい場合は、NIJレベルVの
 正規の試験をクリアした後に、改めて同じ素材を準備して銃器(AK47)と銃弾(FMJ・MSC)とその銃弾の発射条件を指定した上
 で、NIJ-Std 0108.01 とまったく同じ試験装置・同じ手順で実射試験が実施されます。
 無事耐弾すればそれを踏まえて、レベルVとは別に 「 AK47,FMJ・MSC,フル装薬 / 耐弾 」 の耐弾証明書が付いてきます。
  ちなみに、「 NIJ脅威レベルV 」 はあまりにも広い範囲を示している為、慣例的に、
 「 レベルV 」 「 レベルV+ 」 「 レベルV++ 」 「 レベルV+++ 」 といったように中身を数段階に分けて表現することが
 一般的になっています。 「 AK47+FMJ・MSC 」 は通常では 「 レベルV++ 」 以上に類別されています。

3 できるだけ軽い装備であること
  防弾ベストの場合は、装着者の動きをできるだけ機敏にするために軽ければ軽いほどよいわけです。できれば水に浮くことが
 望まれます。昨今、酷暑の作戦エリアが多いようですから、熱中症管理の面からも軽い装備であることが重要になります。
 兵士が嫌って装着しなくなったら、どんなに高性能の防弾ベストであろうが、なんの意味もありません。
  防弾盾の場合は、操作者の利便性から見れば、やはり軽ければ軽いほどいいことになります。臨検移乗などの場合を考える
 と水に浮くぐらいのものが望まれます。
  船体に直接装備する場合は、艦橋周りやCIC等の重要機器のある部屋の外壁の壁内に装備することになります。大型の
 艦艇でも設計上は船の重心をできるだけ低くすることが求められますから、防弾装備部材もやはり軽いことが望まれます。

4 水分・油分による劣化が発生しないこと。
  東洋紡のザイロン事件にみるように、耐弾素材である繊維が吸湿・加水分解して劣化するようなことがあってはいけません。
  なんといっても海上で着るものですから湿度はいくらでも浸入します。さらに酷暑環境では、装着者の汗が吸湿劣化の源に
 なります。ということは性能が水分に左右されるようなものであってはならないということです。
  また格納しておく狭いロッカーでは何がしかの油脂分も必ずあるはずです。これが劣化の一因になってはいけません。
  重要な装備なんですけど、装着者から大事に扱ってもらえることは稀有のはずです。水分・油分に強いことは必須条件です。

5 保険が適用されること。

  防衛省の自衛官に対する公的な補償制度・機能は、残念ながら充分ではありません。
  さらには 「 防弾 」 というある意味マイナーな装備に対して「保険」云々は、誰も発想がないはずです。
 これでは不幸にして被弾して負傷した若しくは最悪では死亡してしまった隊員自身や隊員家族への補償が足りません。
 個人用装備である防弾ベストには、耐弾するはずだった銃弾を止める事ができなかった場合の装着者への補償機能がある
 べきだと考えられます。

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